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東京高等裁判所 昭和45年(行コ)80号 判決 1973年4月11日

東京都文京区小日向町一丁目一〇番一号

控訴人

鈴木トメ子

右訴訟代理人弁護士

永山栞

東京都新宿区三栄町二四番地

被控訴人

四谷税務署長

宮沢貞治郎

右指定代理人

中村勲

柳沢正則

功刀靖介

佐伯秀之

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一申立

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人が控訴人に対し、昭和三九年五月三〇日附でした控訴人の昭和三七年分所得税額を金一一、八二五、三四〇円とする更正処分および過少申告加算税額を金二五五、一〇〇円とする賦課決定のうち、東京国税局長の審査裁決によつて維持された所得税額金一一、七九五、三四〇円は金六、七二三、一七五円を超える限度において、また同審査裁決によつて維持された過少申告加算税額二五三、六〇〇円はその全額を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

被控訴代理人は、主文第一項同旨の判決を求めた。

第二主張および証拠

当事者双方の事実上の主張および証拠は、次に附加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

(控訴人の主張)

1  原判決二丁裏二行目「につき、」の次に次のとおり挿入する。

「実際は昭和三七年一一月下旬から一週間使用不能となって営業の一部を休止せざるを得なかったことと、昭和三七年一一月下旬から昭和三八年二月にかけて営業所の前を自動車だけが運行できなくなつたための損害を受けたに過ぎないのに対して、」

2  同裏九行目から一〇行目にかけての「原告の建物改造のための贈与金である。」を次のとおり訂正する。

「その実質は内金八〇〇万円が自宅の麻雀設備のための建物改造費で、その残額九、二九五、八〇二円がなんら名目のない収入金であり、贈与またはこれに類する収入金である。」

3  同五丁表五行目の「収益補償なるものは、」の次から七行目「損失補償であるから、」までを次のとおり訂正する。

「事業者が事業の全部または一部の休止により、本来の事業そのものを遂行できないため失った営業収益に対する損失補償であり、事業の休止がなかつたならば事業者が事業の遂行により得ただろうと推測される対価的、継続的収入金のみが事業所得の収入金とされるのである。従つて、収益補償だけが事業所得の収入金となるものであるから、」

4  同表一〇行目「していない。」の次に次のとおり挿入する。

「また事業から生ずる所得は、その年中の総収入金額から必要経費を控除した金額とすると規定している。この総収入金額とは事業の遂行そのものの損益に対応する収入金のことであるから、事業遂行のための資本的収入金は事業所得の収入金には含まれないし、税法は損害賠償金またはこれに類する一時的収入金を事業所得と規定していないことから明らかである。」

5  同裏四行目の次に次のとおり加える。

「建物改造費などは一時所得の収入金であるから、同規則七条の一一がこれらの収入金を事業所得の収入金と擬制したものであるとすれば、法律の委任を受けない無効の規定である。」

6  同八丁表六行目の「贈与金」を次のとおり訂正する。

「法人からの贈与もしくはこれに類する一時的収入金」

7  同表七行目の次に次のとおり加える。

「本件補償金中に建築改造費等が含まれていることは、次の(一)から(一〇)までの事実からも明らかである。

(一) 営団が算出した収益補償金額は、昭和三七年、三八年、三九年の各年度の事業所得額に割振つて加算してみても、各年度の事業所得額に著しい高低がある。

(二) 標準期間の一か月あたりの麻雀客およびその席料は、営団の算定によれば、一、〇五〇名で六八二、五〇〇円となるが、営業所の資料によれば、七八四名で五〇九、六〇〇円となるので、一か月あたり一七万円余の収益増の計算である。

(三) 標準期間の一か月あたりの預り金、立替え金、材料代は、営団の算定によれば、七八一、六四五円となるが、営業所の資料によれば、一、二九三、〇二二円となるので、一か月あたり五一一、三七七円の収益増の計算である。

(四) 営団は一九か月間の収益補償額を算定しているほか、この期間内にさらに二〇日間全部の休業補償額を追加計算している。

(五) 麻雀業の利益率を適用すべきであるのに、利益率の高い割烹旅館の利益率を適用していて収益を多くみている。

(六) 営業所の麻雀客は固定した客であり、地下鉄工事もさほどその営業に影響を及ぼさないのに、五二パーセントの減歩率を適用して補償額を多くしている。

(七) 補償金についての営団の決済書類は、控訴人と加藤清一との間で本件補償金額についての話合いが妥結した昭和三七年六月二九日に起案され、同年七月三日に決済されている。

(八) 営団は本件補償金額を算定するについて、営業所の帳簿などによらず、収益率の高い営団独特の方式を使って、収益額を多くみている。

(九) 加藤清一は控訴人から、昭和三七年七月一一日、本件補償金のうちから三五〇万円を借受けた。

(一〇) 加藤清一および中村丹治は控訴人から、昭和三七年七月中、腕時計各一箇の贈与を受けた。

また加藤、中村に対する前記腕時計(合計代金三五万円)の贈与は、建物改造費などを支払わせるためのものであるから、その必要経費というべきであつて、これはそれぞれ一八か月および三六か月後に控訴人に返還されているが、返還によつてその性質を変えるものではないし、少くもその使用によって減少した価値の減少額は必要経費であり、一時所得の収入金から控除すべきである。なお建物の改造費なども一時所得の収入金であるから、一五万円の控除をなすべきものである。

被控訴人は営業所に存する商業帳簿その他の資料を調査せずに、修飾された営団作成の資料のみを基礎として控訴人の損益に関する更正決定をしたのは、その前提とする合理的な調査がなされていたことになり、国税通則法二四条に照らしても違法である。

なお、本件建物改造費は、控訴人の得意先を将来も維持するための設備資金として収受したもので、事業そのものを遂行するための前提である事業設備の収入金であつて、資本的収入金というべきものである。」

(被控訴人の主張)

1  控訴人の前記主張事実はすべて否認する。

2  原判決九丁表六行目の次に次のとおり加える。

「事業の休止などによる収益の補償金などで、事業所得の収入金に代わる性質を有するものは、その経済的実質において事業収入と同視すべき関係にあって、当然事業所得の総収入金額に包摂すべきものであるから、その金額は事業上の損失の代償として現実に取得されたものの全部であり、事実の休止により受けるであろう客観的な損失によるべきものではないのである。

従つて、規則七条一一の規定は、所得税法に内在する原則に基づいて所得の種類を確認し、法九条一項四号の規定を補充して具体的かつ確認的に規定した解釈規定であり、憲法八四条いわゆる「あらたに租税を課し」た場合でもなければ、「現行の租税を変更する」場合にもあたらないことは明らかであり、租税法律主義に反するものではない。

また、法九条一項九号は、一時所得を規定しているが、消極的な消去方法をとり、その源泉自体が極めて主観的であり、いずれも計画的、規則的でない、予測しえない偶発的な性質を有する所得をいつている。

しかるに、本件営業補償金のうちに営業収益の補償以外のその他の収入金が含まれたものとしても、その他の収入金とは控訴人が地下鉄工事終了後もこうむることのあるべき顧客の喪失という営業上の損失を防止するため、つまり控訴人が営む事業について損失が見込まれたところから支払われたものであり、これはその発生の源泉を検討すれば控訴人の営む事業であると認識すべきものであるから、事業所得の総収入金額に加算すべきものであつて、一時所得ではない。

理由

一  当裁判所は、控訴人の本訴請求は当審における各主張をあわせて考えても失当として棄却すべきものと判断する。その理由は、次に附加するほか原判決理由説示と同一であるから、その記載を引用する。

1  原判決一三丁裏九行目「いうまでもない。」の次に次のとおり挿入する。

「そうして、事業収益の補償として現実に支払われた金員の全額が事業所得に含まれるものと解すべきである。」

2  同一四丁表一行目の次に次のとおり加える。

「また同規則条項自体が法九条一項四号の規定の解釈規定とみるべきであるから、違憲の主張は到底採用できない。」

3  同二一丁表七行目「得ている限り、」の次に次のとおり挿入する。

「(成立に争いのない乙第三号証と弁論の全趣旨によつて認められるとおりこの金額の決定には営団の公的な資料その他控訴人提出の資料をも算出の根拠としているので、その調査に違法のかどはない。)」

二  よつて、本件控訴は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 古関敏正 裁判官 川添万夫 裁判官田中良二は転官のため署名押印できない。裁判長裁判官 古関敏正)

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